日本、ベトナムを不可欠なパートナーと位置付け、石破首相とトー・ラム書記長が関係強化で一致

はじめに

2025年4月27日、日本の石破茂首相は、ファム・ミン・チン首相夫妻の招待を受け、夫人と共にベトナムへの公式訪問を開始しました。この訪問は、石破氏にとって首相就任後初めてのベトナム訪問であり、両国の外交関係樹立から半世紀以上を経て築かれた「包括的戦略的パートナーシップ」をさらに強化する重要な機会となりました。特に、ベトナムが南部解放・国家統一50周年を祝う節目の時期に行われたことは、この訪問の歴史的な意義を一層深めています。訪問中、石破首相はハノイの党中央本部庁舎でトー・ラム共産党書記長と会談し、二国間関係の現状と将来について深く議論しました。この会談は、両国が共有する戦略的利益と、地域および世界の平和と安定に向けた共通の責任感を再確認する場となりました。

日本とベトナムの関係は、1973年の外交関係樹立以来、着実に発展を遂げてきました。経済、政治、文化、人的交流など、多岐にわたる分野での協力が深化し、2023年には関係が「包括的戦略的パートナーシップ」へと格上げされました。これは、両国が互いを極めて重要なパートナーと認識し、長期的な視点に立って協力関係を構築していく強い意志を示すものです。今回の石破首相の訪問とトー・ラム書記長との会談は、この格上げされたパートナーシップを具体的な行動に移し、新たな協力の時代を切り開くための重要な一歩と位置づけられています。

トー・ラム書記長と石破首相の会談:協力深化への道筋

党中央本部庁舎で行われた会談において、トー・ラム書記長は石破首相の訪問を温かく歓迎し、これが両国の包括的戦略的パートナーシップの新たな発展段階を開く上で重要な貢献を果たすとの期待を表明しました。ベトナム外務省によると、書記長は両国間の戦略的協力を強化するための具体的な方向性として、7つの主要な柱を提案しました。これらは、相互の政治的信頼関係を絶えず強化すること、安全保障・国防分野での実質的かつ効果的な協力を確固たるものにすること、そして科学技術と質の高い人材育成を基盤とした経済協力関係を一層強化することを含んでいます。

トー・ラム書記長の提案:7つの協力の柱

トー・ラム書記長が提示した7つの協力の柱は、日越関係の多岐にわたる側面を網羅するものです。以下にその概要を示します。

  • 政治的信頼の継続的強化: 両国指導者間の対話や交流をあらゆるレベルで維持・促進し、相互理解と信頼を深めることの重要性が強調されました。これは、二国間関係全体の基盤となるものです。
  • 安全保障・国防協力の実質化: 防衛装備品の移転、共同訓練の実施、サイバーセキュリティ対策、海洋安全保障、国連平和維持活動(PKO)など、具体的な協力分野での連携を強化し、地域および国際社会の平和と安定に貢献することを目指します。
  • 科学技術・人材基盤の経済協力強化: デジタル変革、グリーン成長、サプライチェーン強靭化など、現代的な課題に対応するための経済協力を推進します。特に、日本の先進技術やノウハウを活用し、ベトナムの産業高度化を支援することが期待されます。
  • 新世代ODAによるインフラ支援: 日本に対し、質の高いインフラ整備、特に交通網、エネルギー、気候変動対策に関連する大規模プロジェクトへの積極的な参加を要請しました。これは、従来のODAとは異なる、より戦略的で互恵的な協力形態を目指すものです。
  • 科学技術・イノベーション協力の新たな柱: 科学技術、イノベーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)分野での協力を、二国間関係の新たな中核と位置づけることを提案しました。共同研究、技術移転、スタートアップ支援などが想定されます。
  • 質の高い人材育成の強化: 日本国内での研修や留学、そして両国協力の象徴である越日大学(Vietnam Japan University)などを通じた、高度な知識と技術を持つ人材の育成プログラムを拡充することの重要性が強調されました。
  • 文化・人的交流の促進: 地方間交流、観光、青少年交流などを通じて、両国民間の相互理解と友好関係をさらに深める取り組みを強化します。

特に、トー・ラム書記長は、科学技術とイノベーション分野での協力を二国間関係の新たな柱として確立する必要性を強く訴えました。デジタル転換、スマートシティ、再生可能エネルギーといった分野での共同プロジェクトや、研究者・技術者間の交流促進、そして質の高い人材育成における連携強化を具体的に提案しました。これは、ベトナムが目指す2045年までの先進国入りという長期目標達成に向け、日本の協力を不可欠な要素と捉えていることの表れです。

石破首相の応答:ベトナムへの強い支持

石破首相は、トー・ラム書記長の提案に呼応し、ベトナムが日本にとって「不可欠なパートナー」であることを改めて断言しました。首相は、日本が今後もベトナムの発展路線を支持し、独立自主の経済基盤構築、工業化・現代化プロセスの推進、そして新たな発展段階における経済社会開発戦略・計画目標の達成に向けて、引き続き伴走者として支援していく意向を力強く表明しました。

石破首相はまた、ベトナムが経済発展と科学技術重視の方向性を明確にし、新たな時代へと踏み出そうとしていることを高く評価しました。さらに、トー・ラム書記長の指導の下で進められている行政機構の効率化・スリム化に向けた改革努力や、複雑化する国際・地域情勢の中でベトナムが示している主体的かつ積極的な外交姿勢に対しても、肯定的な評価を与えました。首相は、ベトナムが新たな時代において、さらに大きく、輝かしい成果を収めるであろうとの強い信頼を示し、日本がその発展の道のりにおいて、常にベトナムと共に歩む用意があることを強調しました。

日本のベトナム支援と協力分野の深化

石破首相は、今回の訪問を通じて、日本がベトナムの持続的な発展を多角的に支援していく姿勢を明確にしました。経済協力、安全保障、人的交流など、幅広い分野での連携強化が確認されました。

経済発展への継続的支援

日本は長年にわたり、政府開発援助(ODA)を通じてベトナムのインフラ整備や社会経済開発に貢献してきました。石破首相は、今後も経済協力、特にODAや直接投資を通じて、ベトナムの発展を後押ししていく方針を再確認しました。トー・ラム書記長が言及した「新世代ODA」は、従来のインフラ支援に加え、気候変動対策、デジタルトランスフォーメーション、高度人材育成といった、現代的な課題に対応する戦略的な協力を含むものと考えられます。日本からの投資は、ベトナムの産業構造転換や技術力向上に不可欠であり、両国は投資環境の整備やサプライチェーンの連携強化に向けて、引き続き協力していくことで一致しました。

多岐にわたる協力分野の拡大

会談では、既存の協力分野に加え、新たな領域での連携強化も重要なテーマとなりました。両首脳は以下の分野での協力を深化させることで合意しました。

  • 安全保障・国防: 海洋安全保障、サイバーセキュリティ対策、防衛装備・技術協力、国連平和維持活動(PKO)における連携など、より実践的で戦略的な協力を推進します。
  • デジタル転換とイノベーション: スマートシティ構築、電子政府化、データ活用、スタートアップエコシステムの育成などで協力し、両国のデジタル競争力を高めます。
  • 先端技術分野: 量子技術、半導体産業など、将来の経済成長の鍵となる先端分野での共同研究や人材育成、サプライチェーン構築を目指します。
  • 文化・人的交流: 観光促進、地方自治体間の交流、青少年交流プログラム、文化イベントの共同開催などを通じて、両国民の相互理解と友好親善を一層深めます。

これらの協力分野の拡大は、日越関係が単なる経済的な結びつきを超え、より包括的で戦略的なパートナーシップへと進化していることを示しています。

人的交流と人材育成の重視

人的資源は、両国の将来の発展にとって最も重要な基盤です。石破首相は、日本に在住する60万人を超えるベトナム人コミュニティに対する支援を継続し、彼らが日本社会で活躍できる環境を整備していくことを約束しました。この大規模なコミュニティは、両国間の架け橋として、経済、文化、社会の各方面で重要な役割を担っています。また、首相は、質の高い人材育成、特に越日大学における教育プログラムへの支援を強化する意向を表明しました。越日大学は、両国の知を結集し、将来のリーダーを育成する象徴的なプロジェクトであり、その発展は日越協力の深化に大きく貢献することが期待されます。

さらに、石破首相は、ベトナム公安省が主催する「世界警察音楽隊コンサート」に日本の警察音楽隊を派遣する意向も明らかにしました。これは、安全保障分野における協力だけでなく、文化交流を通じた信頼醸成の重要性を示すものです。

国際場裏での連携強化

二国間関係の強化に加えて、トー・ラム書記長と石破首相は、地域および国際社会が直面する課題に対して、両国が緊密に連携していくことの重要性でも一致しました。特に、国連や東南アジア諸国連合(ASEAN)といった多国間の枠組みにおいて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、協力していくことを確認しました。南シナ海問題を含む地域の平和と安定、航行・飛行の自由の確保、国際法の遵守といった共通の課題に対し、両国が連携して建設的な役割を果たしていくことが期待されます。この連携は、アジア太平洋地域全体の安定と繁栄に不可欠な要素であり、日越包括的戦略的パートナーシップの国際的な意義を示すものです。

日越関係の歴史と現状:深化するパートナーシップ

日本とベトナムの関係は、長い歴史を経て、今日の強固なパートナーシップへと発展してきました。

関係発展の歩み

1973年の外交関係樹立以降、両国関係は着実に深化してきました。特に1990年代以降、日本の積極的な経済協力とベトナムのドイモイ(刷新)政策が相まって、経済関係が飛躍的に拡大しました。2009年には「戦略的パートナーシップ」に、そして2014年には「広範な戦略的パートナーシップ」へと格上げされ、協力分野は経済に留まらず、政治、安全保障、文化、人的交流へと広がりました。そして、外交関係樹立50周年を迎えた2023年、両国関係はついに「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」へと引き上げられ、名実共に関係は新たな高みに到達しました。今回の石破首相の訪問は、この最高レベルのパートナーシップを実質的なものとし、具体的な協力プロジェクトを推進していくための重要な契機となります。

経済関係の現状:相互依存の高まり

経済面における日越関係の重要性は、各種データにも明確に表れています。日本はベトナムにとって最大のODA供与国であり続けており、ベトナムのインフラ整備や貧困削減に大きく貢献してきました。また、労働協力においても日本は最大のパートナーであり、多くのベトナム人技能実習生や労働者が日本の産業を支えています。投資面では、日本はベトナムにとって第3位の投資国であり、製造業を中心に多くの日本企業がベトナムに進出し、雇用創出や技術移転に貢献しています。観光・貿易面でも日本は第4位の重要なパートナーであり、両国間の人やモノの流れは年々活発になっています。

以下の表は、近年の日越間の貿易額の推移を示しています。

総貿易額 (億米ドル)前年比増減率 (%)
2023約450 (推計)
202446.2+2.7%

2024年の両国間の貿易総額は462億米ドルに達し、前年比で2.7%増加しました。これは、世界経済の不確実性が高まる中でも、日越間の経済的な結びつきが依然として強固であることを示しています。今後、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)といった経済連携協定の枠組みも活用しながら、両国の貿易・投資関係はさらに拡大していくことが期待されます。

結論:未来志向の協力関係へ

石破首相のベトナム訪問とトー・ラム書記長との会談は、日越両国が互いを極めて重要なパートナーと位置づけ、未来志向で協力関係を深化させていく強い意志を改めて確認する機会となりました。政治的信頼の強化から、経済、安全保障、科学技術、人的交流に至るまで、包括的戦略的パートナーシップの名にふさわしい、多層的で具体的な協力が進展することが期待されます。特に、科学技術・イノベーションやデジタルトランスフォーメーションといった新たな協力の柱を確立し、新世代ODAを通じて質の高いインフラ整備を進めることは、ベトナムの持続的な成長と現代化を力強く後押しするでしょう。また、60万人を超える在日ベトナム人コミュニティへの支援や、越日大学をはじめとする人材育成への注力は、両国の未来を担う世代への投資であり、長期的な関係発展の礎となります。日本とベトナムは、二国間関係の強化を通じて、アジア太平洋地域、そして世界の平和、安定、繁栄に積極的に貢献していくという共通の目標に向かって、今後も緊密に連携していくことでしょう。今回の首脳会談は、そのための確かな一歩を刻むものとなりました。