ベトナム南北高速鉄道計画:国家戦略プロジェクトの現状と国際協力の展望

ベトナム南北高速鉄道:国家戦略上の最重要課題

プロジェクトの起源、理論的根拠、進化する経済目標

ベトナムの南北高速鉄道(HSR)プロジェクトは、2010年に当時のグエン・タン・ズン首相によって初めて提案された。ハノイとホーチミン市(HCMC)を結ぶ全長1,500kmの路線を建設し、移動時間を6時間未満に短縮することを目指していた。当初の推定事業費は600億米ドル(2009年のGDPの3分の2に相当)で、政治局の承認を得たものの、経済的実現性への懸念から国会で否決された経緯がある。その後、プロジェクトは再浮上し、2024年後半には推定事業費700億米ドル、後に政府試算で約670億米ドルとされた。この再評価の背景には、ベトナム経済の成長、東南アジアにおけるHSRの成功事例、そして国民や政策立案者からの支持の高まりがある。このプロジェクトの再始動とコスト許容度の増加は、過去10年間のベトナムの著しい経済成長と財政能力の向上を反映しており、かつてはGDP比で実現困難とされたプロジェクトが、大規模ながらも管理可能な戦略的投資へと変化したことを示している。

ベトナムの既存の鉄道システムは、主にフランス植民地時代に建設されたもので(総延長3,315km、うち幹線2,647km)、現在では老朽化が進んでいる。軌間1メートルのメーターゲージが80%以上を占め、最高速度は旅客列車で時速100km、貨物列車で時速50~60kmと遅く、近隣諸国に比べて遅れをとっており、アジア横断的な輸送インフラから孤立するリスクを抱えている。HSRは「決定的に必要なもの」と見なされている。

HSRの経済的・社会的目標は多岐にわたる。ハノイ-ホーチミン市間の移動時間を大幅に短縮し(急行列車で5時間20分)、地域連結性を促進し、経済成長を後押しし、新たな開発空間を創出することが期待されている。また、物流の制約を緩和し、カンボジア、ラオス、中国との連結性を高める可能性も秘めている。駅周辺の不動産開発(TOD:公共交通指向型開発)、交通渋滞の緩和、インフラ維持コストの削減、そしてより環境に優しい交通手段の提供も目標に含まれる。このプロジェクトは運輸構造の再編に不可欠であり、ベトナムの成長の基礎となると位置づけられている。GDP成長率を0.97%押し上げる効果も予測されている。このHSRは単なる輸送効率の向上だけでなく、2045年までの高所得国入りを目指すベトナムの広範な国家開発戦略の中核要素であり、中国のインフラ主導型成長モデルを彷彿とさせる。

政治的な後押しも強力である。ファン・ミン・チン首相が主要な推進者であり、2023年2月には政治局が鉄道開発の方向性を示す結論第49-KL/TW号を発行し、同年11月には国会がその実施と2024年中のHSR投資計画承認を求める決議第103/2023/QH15号を可決した。そして2024年11月30日、国会は670億米ドル規模のプロジェクトの投資政策を正式に承認した。TOD(公共交通指向型開発) を重視する点は、コストを部分的に相殺し、鉄道を地域経済と統合するための、世界のHSR経験から学んだ戦略的アプローチを示唆している。

主要技術仕様とルート詳細

南北高速鉄道の総延長は1,541kmである。ルートはハノイのゴックホイ駅からホーチミン市のトゥーティエム駅までを結び、20の省と市を通過する。具体的には、ハノイ、ハナム、ナムディン、ニンビン、タインホア、ゲアン、ハティン、クアンビン、クアンチ、トゥアティエン=フエ、ダナン、クアンナム、クアンガイ、ビンディン、フーイエン、カインホア、ニントゥアン、ビントゥアン、ドンナイ、ホーチミン市が含まれる。

設計最高速度は時速350kmである。ただし、一部の研究では運行速度時速180~225kmという記述も見られる。軌間は標準軌の1,435mm、複線電化方式が採用される。これは既存のメーターゲージ中心のネットワークからの決定的な転換点となる。軸重は22.5トンに対応する。

駅は旅客駅23駅と貨物駅5駅が設置される計画である。旅客・貨物兼用2駅と貨物専用5駅を含む合計26駅の詳細リストが掲載されており、これが最も詳細な駅情報源である。主な目的は旅客輸送であるが、国防や必要時の貨物輸送にも対応できる多目的性を有する。軽貨物や高付加価値の電子商取引商品も想定されている。技術標準としては、従来の予備設計に代わり、FEED(Front-End Engineering Design)標準が採用される。これは、より詳細で正確な初期段階の設計とコスト見積もりを目指す動きであり、過去の大規模プロジェクトで見られた問題を回避する意図がうかがえる。

標準軌(1,435mm)への移行は、ベトナムにとって根本的な技術的飛躍であり、国際的なHSRネットワーク(特に中国)との整合性を高め、既存のメーターゲージシステムの限界を直接的に克服し、より高速・大容量の運行を可能にする。また、旅客、貨物、国防という多目的性は、巨額投資の戦略的価値と経済的実用性を最大化し、単なる旅客利便性を超えた多面的なプロジェクトとしての正当性を高めている。計画されている23の旅客駅と5つの貨物駅は、単に両端都市を結ぶだけでなく、主要な経済圏と人口中心地を結びつけ、より広範な地域開発効果を狙う戦略を示唆している。

推定投資額、資金調達戦略、段階的開発

総事業費は、政府提出資料や承認ベースで約670億~673.4億米ドルとされている。初期の推定では700億米ドルであった。国内企業のビンスピード社は、用地買収費を除き613.5億米ドルを提案している。

政府計画による資金調達源としては、主に国家予算、政府債、ODA、外国からの優遇借款、その他の合法的な国内資本が挙げられる。国会決議では、「独立と自立の精神」に基づき、外国からの借款を使用しない方針が強調されているが、「必要が生じれば外国からの支援の扉は開かれている」ともされており、柔軟性も示唆されている。市場に適した利率での政府債発行、PPP(官民連携)を含む国内投資の誘致、そして「制約の少ない」または「インセンティブの高い」外国資源の動員も検討されている。中期公共投資計画を通じた十分な資本配分も計画されている。予算配分は3期の中期計画にわたり、2021~2025年(準備作業に5,380億ドン)、2026~2030年(841兆7,000億ドン)、2031~2035年(871兆3,000億ドン)となっている。2019年公共投資法で義務付けられている財政的実現可能性評価は、予算配分に関して免除される。駅周辺の土地公売による収益は、地方および中央のインフラ再投資に充当される。

ベトナムの資金調達戦略は、「独立と自立」を追求し国内資金を優先する願望と、プロジェクトの巨大な規模を考慮して外国資本やODAの選択肢を残しておく現実的な必要性との間で揺れ動いている。これは、資金調達に対する柔軟なリスク軽減アプローチを示唆している。標準的な財政的実現可能性評価からの免除は、このプロジェクトが戦略的な国家優先事項であることを強調しており、直接的な財政収益よりも長期的な社会経済的便益が重視されていることを示している。これは変革的なインフラプロジェクトに共通の特徴である。ハノイ-ビン間、ニャチャン-ホーチミン市間といった区間を優先する段階的アプローチは、巨大な建設と財政負担を管理するための現実的な戦略であり、主要回廊でより早期に具体的な便益を提供しつつ、学習と調整を可能にする。

開発は段階的に進められ、初期の優先区間はハノイ-ビン間およびニャチャン-ホーチミン市間である。これらの区間の用地取得と業者選定は2027年末に開始される予定である。建設はハノイ-ビン間、ビン-ニャチャン間、ホーチミン市-ニャチャン間の3区間に分けて行われる。

公式タイムライン、現在の進捗、主要な政府承認

全体的なタイムラインとしては、政府決議第106号およびチン首相の発言に基づき、2026年末までの着工が目標とされている。当初計画では2027年着工であった。完成および基本運用開始は2035年を目指している。

決議第106号などに示される主要なマイルストーンは以下の通りである。

  • フィージビリティスタディ(FS)完了:コンサルタント選定とFS実施を2026年8月まで。
  • FS承認:国家鑑定評議会による審査と首相承認を2026年9月まで。
  • 用地買収:補償、移転、公益事業の移設を2026年12月までに概ね完了。
  • 業者選定と契約締結:2026年12月31日までに確保。

政府承認としては、2024年11月30日に国会が約670億米ドルの投資政策を承認。政府決議第106/NQ-CP号(2025年4月23日発行)がロードマップを詳述している。2023年2月には政治局が鉄道開発の方向性に関する結論第49-KL/TW号を発行した。プロジェクト調整と実施の主導機関としては建設省が指定されている。運輸省が提案を最終決定するという言及もあるが、最近の決議によれば建設省が全体的な実施を主導するようである。

着工目標を2027年から2026年末へと前倒ししたことは、プロジェクトの恩恵を実現するための強大な政治的意思と緊迫感を示す一方、準備段階(FS、用地買収、業者選定)を大幅に圧縮し、実行リスクを高める。決議第106号における詳細なロードマップと具体的な期限設定は、プロジェクト管理への構造化されたアプローチを示すが、一つの段階の遅延が連鎖的に影響を及ぼす重要な相互依存性も浮き彫りにする。運輸インフラでは通常運輸省が主導するが、建設省が主導機関に指定されたことは注目に値し、これは関連する建設工事の膨大な規模や、この巨大プロジェクトのための特定の政府構造を反映している可能性がある。

表1:南北高速鉄道プロジェクト – 主要仕様と現状

項目詳細
総延長(km)1,541
設計最高速度(km/h)350
軌間(mm)1,435(標準軌)、複線電化
ルートハノイ・ゴックホイ駅~ホーチミン市・トゥーティエム駅、20省市経由
旅客駅数23
貨物駅数5
推定総事業費約670億~673.4億米ドル
主要資金調達アプローチ国家予算、政府債、ODA、外国優遇借款、国内資本。外国借款不使用の方針も(ただし柔軟性あり)
主要政府決議国会決議(2024年11月30日投資政策承認)、政府決議第106/NQ-CP号(2025年4月ロードマップ)、政治局結論第49-KL/TW号(2023年2月鉄道開発方針)
公式着工目標2026年末まで
公式完成目標2035年まで(基本運用開始)
主導政府機関建設省

中国企業によるベトナム高速鉄道未来への参入

CCECC/CRCC:表明された関心と南北高速鉄道への貢献提案

中国中鉄建設集団(CRCC)傘下の中国土木工程集団(CCECC)は、南北線やベトナム-中国間の国境を越える鉄道接続を含むベトナムのHSRプロジェクトへの参加に強い関心と希望を表明している。CRCCは世界最大級の建設グループの一つである。CCECCはこれまでに9,000km以上の鉄道を建設しており、これは中国が海外で建設した鉄道の80%を占める。中国国内外で多数のHSRプロジェクトを実施した経験も有する。

CCECCの幹部(陳思昌総経理など)は、選定された場合、高い技術水準、良好な品質、厳格な品質管理、そして納期通りの納入を約束している。また、技術共有、移転、共同開発においてベトナム側パートナーと緊密に協力することも約束している。しかしながら、提供された情報源には、CCECC/CRCCからの南北高速鉄道に関する具体的な技術的または財政的提案の詳細は、一般的な関心とコミットメントを超えては含まれていない。焦点は参加と協力への意欲にある。

CCECC/CRCCが広範な海外経験を強く強調しているのは、ベトナムで前例のないプロジェクトの技術的複雑さに直接対応し、有能で信頼できるパートナーとしての地位を確立するための戦略的な動きである。「納期通りの納入」の約束は、世界的に大規模インフラプロジェクトで遅延が頻発し、ベトナム自身もHSRに野心的なタイムラインを設定していることを考えると、特に重要である。これは主要なセールスポイントとなる。CCECC/CRCCからの具体的な技術的・財政的詳細が公的な提案として不足していることは、議論が政府レベルまたは企業幹部レベルで進行中であるか、あるいは具体的な提案がベトナムからのより詳細なプロジェクトパラメータ(例えばフィージビリティスタディ後)を条件としている可能性を示唆している。

ベトナム政府の中国参加に関するスタンスと期待

チャン・ホン・ハー副首相は、ベトナムがCCECCを含む中国企業のベトナム企業との協力を歓迎すると述べている。これはベトナム-中国の包括的戦略的協力パートナーシップの枠組み内での動きである。

ベトナム側の主要な期待は以下の通りである。

  • 技術移転と国内能力構築: ベトナムは中国の経験から学ぶことに熱心であり、中国企業が技術移転、ベトナム側パートナーが現代の鉄道技術を習得し共同開発することを支援し、ベトナムの鉄道産業エコシステムの構築に貢献する上で重要な役割を果たすことを期待している。これは最優先事項である。
  • 競争力向上: 協力は技術、品質、コスト効率の面での競争力向上につながるべきである。
  • 差別のなさ: ベトナムは(国内・国外を問わず)国有企業と民間企業を区別しない。重要な基準は、能力、技術的専門知識、国際基準に従った技術移転能力である。
  • 長期的視点と相互利益: ハー副首相はCCECCに対し、長期的な投資ビジョンを持ち、相互利益を追求し、ベトナムの鉄道産業エコシステム構築に貢献するよう求めた。

ベトナムはHSRプロジェクト実施における中国の経験とノウハウの共有を明確に望んでいる。

ベトナムが技術移転と国内鉄道エコシステム構築を明確かつ繰り返し強調していることは、単にHSR路線を取得するだけでなく、将来のプロジェクトと長期的なメンテナンスのための国内能力を開発し、それによって長期的な外国依存を減らすという中核的な戦略目標を明らかにしている。「差別のない」政策は、すべての潜在的な入札者(中国、日本、韓国、国内)に対し、選定が能力(能力、技術、移転可能性)に基づいて行われることを示し、有能な中国国有企業にも門戸を開きつつ、競争環境を醸成するものである。「ベトナム-中国包括的戦略的協力パートナーシップ」の文脈は、中国の関与にとって好ましい政治的背景を提供するが、ベトナムが(特に技術移転に関する)期待を明確に表明していることは、政治的結びつきだけでは契約を保証せず、ベトナムへの具体的な利益が最優先であることを示している。

ラオカイ-ハノイ-ハイフォン鉄道:中国との並行戦略的連携

南北高速鉄道とは別個だが関連するプロジェクトとして、ラオカイ-ハノイ-ハイフォン鉄道がある。これはベトナム北部の中国との国境(ラオカイ)と首都ハノイ、主要港湾都市ハイフォンを結ぶことを目的としている。総延長は403km超(本線388~391km、支線15~27.9km)。軌間は標準軌(1,435mm)、電化方式で、最高速度は時速160km(ハノイ市内は時速120km、支線は時速80km)である。投資額は推定80億~83億米ドル(約195兆ドン)。

資金調達は、中国輸出入銀行などからの中国融資、国家予算、その他の合法的資金源によって一部賄われる。政府はこのプロジェクトについて指名による業者選定を要請した。建設は2025年12月に開始予定、2030年までの完成を目指している。フィージビリティスタディ報告書は2025年7月までに完了予定である。

戦略的重要性としては、ベトナム北部(製造業、レアアース)と中国南部との経済的連携を強化し、中国-ASEAN自由貿易地域やアジア横断鉄道構想を支援することが挙げられる。この路線は中国南西部から国際港への物資輸送にとって不可欠である。中国の関与としては、中国とベトナムがこの路線を含む鉄道協力協定に署名しており、共同国境橋建設や融資協定に関する中国側機関との交渉が進行中である。

ラオカイ-ハノイ-ハイフォン鉄道プロジェクトは、中越間の鉄道インフラ協力の現在進行形の具体的な事例であり、特に資金調達メカニズムや技術標準化に関して、より大規模な南北高速鉄道のような協力のための小規模なテストケースまたは先例として機能する可能性がある。ラオカイ-ハノイ-ハイフォン線の「指名による業者選定」は、資金調達の連携や技術的整合性から中国の請負業者が有利になる可能性があり、南北高速鉄道で表明されている開かれた能力主義的アプローチとは対照的である。これは、直接的な国境を越える統合の度合いや戦略的パートナーシップが異なるプロジェクトに対して、異なる調達戦略が採用されることを示唆している。ラオカイ-ハノイ-ハイフォン線の経済的根拠(製造業/港湾と中国との接続)は国際貿易と物流に大きく傾斜しているのに対し、南北高速鉄道は貨物や戦略的要素も持つものの、国内統合と旅客輸送に重点を置いている。この主要な推進力の違いは、パートナー選定や技術選択に影響を与える可能性がある。

中越鉄道協力の地政学的・経済的側面の分析

より広範な協力として、中国とベトナムは2025年4月に鉄道協力メカニズムを立ち上げ、軌間を統一し経済的連結性を強化することを目指している。これは「一帯一路」構想と中国-インドシナ半島経済回廊を推進する一環である。地政学的文脈では、中国はHSR技術をベトナムに輸出することに熱心であり、これは大きな地政学的勝利となるだろう。ベトナムは複数の潜在的パートナーと関わることでこれを乗り切ろうとしている。

経済的相互依存関係は、特にベトナム北部と中国南部の間で強力である。鉄道連結性の向上は、貿易を促進し、物流コストを削減し、サプライチェーンを統合すると期待されている。潜在的な懸念としては、歴史的にベトナムでは単一のパートナー、特に中国への過度な依存に対する懸念が存在してきた。南北高速鉄道における技術移転と国内産業育成の重視は、そのような依存を軽減するための戦略と見なすことができる。一社に依存する場合の維持管理コストに関する懸念に言及している。

ベトナムの鉄道プロジェクトにおける中国との関与は、南北高速鉄道を含め、中国との経済的統合の深化による経済的利益と、戦略的自律性を維持しパートナーシップを多様化する必要性とのバランスを取る、より広範な「ヘッジング」外交政策の一環としての計算された動きである。地域における中国製HSRプロジェクトの成功(例:インドネシアのジャカルタ-バンドン線)は、中国の能力を示すデモンストレーターであると同時に、ベトナムの意思決定プロセスにおける(肯定的または否定的な)参照点としても機能する。鉄道軌間の統一は、経済的および地政学的に重要な意味を持つ重要な技術的要因である。中国との標準化は円滑な国境を越える貿易を促進するが、同時に中国との経済的統合を深めることにもなり、ベトナムが慎重に検討する要素である。

表2:ラオカイ-ハノイ-ハイフォン鉄道プロジェクト – 主要仕様

項目詳細
総延長(km)403超(本線388-391、支線15-27.9)
設計最高速度(km/h)本線160、ハノイ市内120、支線80
軌間(mm)1,435(標準軌)、電化
ルートラオカイ~ハノイ~ハイフォン、9省市経由
駅数18駅、技術サービス拠点13カ所
推定総事業費約80億~83億米ドル(約195兆ドン)
主要資金調達源中国融資、国家予算など
公式着工目標2025年12月
公式完成目標2030年まで
主要目的貨物、旅客、国境を越える貿易

グローバルアリーナ:国際的パートナーシップと技術的競争相手

日本:歴史的関与、新幹線技術、継続的な関心

歴史的背景として、日本はベトナムにとって主要なODAパートナーであり、ホーチミン市都市鉄道1号線、ニャッタン橋、ノイバイ国際空港拡張など、運輸インフラに大きく貢献してきた。JICAを通じてHSRの事前事業化調査(プレFS)に資金を提供した実績もある。この長年にわたる主要開発パートナーとしての役割は、ベトナムにおける信頼と経験の強固な基盤を日本に与えている。

過去のHSR提案としては、2010年に日本が支援する新幹線案(560億米ドル)が否決された。2013年10月にはJICAがハノイ-ビン間のHSR区間(102億米ドル)を提案した。現在の関心も依然として高く、南北高速鉄道プロジェクトに強い関心を示している。日本の財務大臣や駐ベトナム大使は、協力と潜在的な資金調達へのコミットメントを繰り返し表明しており、日本企業も詳細なプロジェクト情報を求めている。

技術面では新幹線技術が提案されるとみられる。過去には新幹線のコスト(1kmあたり3,800万米ドルに対し、中国は2,700万米ドル)に関する懸念が提起されたことがある。協力点としては、ベトナムが日本の支援を求めており、鉄道工学分野の奨学金を要請したことが挙げられる。インドが日本のHSR協力で技術移転と国内生産を進めている事例は、ベトナムが検討する可能性のあるモデルである。

覚書(MOU)の状況については、南北線全体に関する日本とベトナム間の特定の、現在有効なHSRに関するMOUは、情報源からは確認できない。ただし、JICAがプレFSに資金提供したことは確認されている。2010年の新幹線導入に関するMOUに言及しているが、これはプロジェクトの否決により影響を受けた。現在の包括的なHSRに関するMOUの状況は不明確だが、一般的な協力関係は強固である。

日本の主要ODA供与国としての長い歴史とベトナムの主要インフラプロジェクトへの貢献は「信頼の配当」を生み出しているが、これは新幹線技術に関連する過去のコスト懸念と2010年のHSR否決によって相殺されている。これにより、日本は信頼できるが潜在的に高価な選択肢として位置づけられている。ベトナムが日本の奨学金を要請したことや、現地生産を含む日本のインドとのHSR協力事例は、ベトナムが人材育成と技術の現地化に関する日本のモデルに強い関心を持っていることを示唆しており、これは国内能力構築という広範な戦略と一致している。南北高速鉄道全体に関する日本との明確で最近の包括的なMOUが(現在の情報源に基づいて)存在しないことは、議論は活発であるものの、ベトナムが全体的なプロジェクト計画と資金調達戦略を最終決定するまでコミットメントが保留されているか、あるいは協力がJICA調査のような他のチャネルを通じて進行している可能性を示している。

韓国:包括的協力提案と技術力

韓国とベトナムは強固な二国間関係を築いており、韓国はベトナムにとって最大のFDI供給国であり、ODA、労働、観光で第2位、貿易で第3位のパートナーである。2022年には包括的戦略的パートナーシップが確立された。

韓国は南北高速鉄道への参加に関心を示しており、朴祥佑(パク・サンウ)国土交通部長官は、計画から建設、運営、技術移転、訓練に至るまで、あらゆる段階でベトナムに協力する用意があると述べている。これはHSRプロジェクトに対する韓国の積極的かつ包括的な提案を明確に示している。

技術力については、韓国はKTX高速鉄道を開発(最初の路線は2004年開業)し、当初はフランス技術を導入したが、現在はHSR技術を習得している(世界で4番目の国)。協力メカニズムとしては、2025年3月31日にベトナム-韓国鉄道協力フォーラムが開催された。韓国鉄道公社(KORAIL)、韓国国家鉄道公団(KNR)、ベトナム鉄道総公社(VNR)間でMOUが締結され、韓国鉄道協会(KORASS)とベトナム鉄道協会間でもMOUが締結された。ベトナム建設省と韓国国土交通部も協力関係にあり、韓国国土交通部は鉄道協力フォーラムを提案している。

財政面では、韓国はベトナムの運輸部門にとって第2位の二国間ドナーであり、9件の完了プロジェクトに10億米ドル以上の融資、6件の進行中プロジェクトに約6億米ドルの融資を提供している。韓国はHSRに対して「フルパッケージ参入」を目指している。ベトナム側からの具体的な要請としては、HSR技術の習得、鉄道産業の発展、貨物輸送業務、鉄道プロジェクトへのODAなどにおける専門知識の共有を韓国に求めている。

韓国の「フルパッケージ」提案は、計画から運営、技術移転までプロジェクトの全段階を網羅しており、統合ソリューションと長期的な能力構築を望むベトナムにとって魅力的な包括的パートナーとして位置づけられている。韓国自身のKTX開発経験(輸入技術から習得へ)は、ベトナムにとって共感しやすく、目標とすべきモデルとして機能し、技術移転の約束を特に信頼できるものにしている。政府間、企業間、協会間など、さまざまなレベルで複数のMOUが締結されたことは、韓国による多層的かつ真剣な関与戦略を示しており、HSR入札を支援するための広範な制度的連携を構築している。

欧州技術提供者:潜在的貢献(シーメンス、アルストム)

欧州のHSR技術(フランス、スペイン、ドイツなど)は世界的に認知されている。フランスやスペインを長期的なパートナー候補として言及しており、フランス企業はベトナムのHSRプロジェクトに関心を示している。

シーメンスとアルストムはHSR技術における主要な欧州企業である。シーメンスとアルストムの合併案は、鉄道信号システムと超高速鉄道市場における競争上の懸念から、2019年にEUによって禁止された。これは、これらの企業がHSR分野で世界的に高い地位と技術力を有していることを示している。アルストムは、アヴェリア・ホライズン超高速列車の需要増などに対応するため、フランス国内のHSR生産能力増強に1億5,000万ユーロ以上を投資している。これはアルストムのHSRにおける継続的な革新と生産能力を示しており、実行可能な技術提供者であることを示唆している。

しかしながら、提供された情報源には、シーメンスやアルストムからのベトナム南北高速鉄道に関する具体的な詳細な提案は見当たらない。プロジェクトが外国融資に依存しないと言及しており、これは欧州からの資金調達(もしあれば)の仕組みに影響を与える可能性がある。ビンスピード社は、技術移転のためにドイツのパートナー(潜在的にシーメンス)と協議中であると述べている。

欧州のHSR技術は世界クラスであるものの、主要な欧州企業(シーメンス、アルストム)からの目立った直接的な提案が情報源にないこと(一般的なフランスの関心やビンスピード社のドイツのパートナーとの協議を除く)は、彼らが異なる関与戦略を追求している可能性を示唆している。例えば、コンソーシアムへの技術供給者として、あるいはビンスピード社のような国内の有力企業を通じての参加であり、主要なEPC/資金調達パートナーとしてではないかもしれない。シーメンスとアルストムの合併に関するEUの過去の審査は、HSR技術市場が集中していることを浮き彫りにしている。ベトナムにとって、これはエンドツーエンドのHSRシステムを提供するグローバルプレーヤーの選択肢が少ないことを意味し、中国、日本、韓国からの提案がさらに重要になる。アルストムのHSR生産能力への大幅な新規投資は、HSR技術に対する世界的な旺盛な需要を示している。これは、欧州のサプライヤーがプロジェクトを選別しているか、あるいは確立された資金調達やパートナーシップの枠組みを持つ市場を優先している可能性があることを意味するかもしれない。

潜在的国際パートナーの比較概要

中国: 広範なHSRネットワーク、迅速な建設経験(例:インドネシア)、潜在的なコスト優位性、既存の強力な二国間関係を提供する。一帯一路と地域連結性に重点を置く。ベトナムにとっての懸念は、過度な依存と確実な技術移転の確保かもしれない。

日本: 高い評価を得ている新幹線技術(安全性、信頼性)、長期的なODAパートナーシップ、質の高いインフラにおける経験を提供する。潜在的な懸念は、より高いコストと過去のプロジェクト否決である。

韓国: 最新のKTX技術、「フルパッケージ」アプローチ(計画から運営まで)、強力な既存の経済的結びつき、共感しやすい開発ストーリー(技術輸入国から習得国へ)を提供する。関与に非常に積極的であるように見える。

欧州(潜在的): 最先端技術(シーメンス、アルストム)を提供する。これまでのところ、国家レベルでの関与はそれほど直接的ではなく、ビンスピード社のような他の主体を通じた技術供給に重点を置いている可能性がある。

ベトナムにとっての主要な決定要因(推測): コスト効率、技術移転の範囲と質、国内産業育成への貢献、資金調達条件、長期的な信頼性と保守性、そして地政学的バランス。

ベトナムは、複数の技術先進国(中国、日本、韓国)からの競争的な関心を活用して、コスト、技術移転、現地調達に関する最も有利な条件を確保できる強力な交渉立場にある。HSRパートナーの選択は、ベトナムにとって単なる技術的または財政的な決定ではなく、「竹の外交」という外交政策と長期的な戦略的連携に深く関わっている。この決定は、経済的利益、技術的ニーズ、地政学的考慮事項を慎重に比較検討した結果を反映することになるだろう。他の東南アジア諸国におけるHSRプロジェクトの「デモンストレーション効果」(例:中国-ラオス、ジャカルタ-バンドン)は重要な要因であり、ベトナムにさまざまな技術、実施モデル、パートナーシップの成果を評価するための現実世界のケーススタディを提供している。

表3:南北高速鉄道への国際的関心の概要

国/主体表明された関心/提案内容主要提供技術/知られる技術報告された財政面/支援関連MOU/合意(日付、関係者)主要な強み(ベトナム認識または一般)潜在的懸念/課題(ベトナム視点または一般分析)
中国/CCECC-CRCCプロジェクト全体への強い関心中国HSR技術潜在的融資、一帯一路関連中越鉄道協力メカニズム(2025年4月)広範な実績、迅速な建設、コスト優位性過度な依存、技術移転の質
日本/JICAプロジェクト全体への強い関心新幹線技術ODA、潜在的融資JICAによるプレFS資金提供(過去にMOUあり、現状不明確)高い信頼性・安全性、長期的ODAパートナーシップ高コストの可能性、過去の否決
韓国/KORAIL-KNRフルパッケージでの参入提案KTX技術ODA、融資、包括的協力KORAIL・KNR・VNR間MOU、KORASS・ベトナム鉄道協会間MOU、建設省・国土交通部間協力(いずれも2025年頃)最新技術、包括的アプローチ、共感しやすい開発経験南北HSR規模での実績は中国・日本に比べ限定的
欧州/シーメンス・アルストム技術供給の可能性(間接的)シーメンス・アルストムHSR技術不明(ビンスピード社がドイツ企業と協議)なし(直接的な国家レベルのものは情報なし)最先端技術ベトナムへの直接的・包括的提案は限定的

国内の野心:ビンスピード社によるHSRへの大胆な提案

ビンスピード社(ビングループ):投資枠組みと開発ビジョン

ビンスピード高速鉄道投資開発株式会社は、ビングループの子会社である。定款資本金は6兆ドン(約2億3,100万~2億4,000万米ドル)である。提案されている投資額は1,562兆ドン(約602億4,000万~613億5,000万米ドル)で、補償、移転、再定住に関連する費用は含まれていない。

開発ビジョンとしては、ベトナムの近代的な鉄道産業の基礎を確立し、地域経済開発を刺激し、ベトナムを経済的飛躍に向けて位置づけることを目指している。これは科学技術、デジタルトランスフォーメーション、民間部門開発に関する党の決議とも一致している。タイムラインについては、2025年12月以前に建設を開始し、2030年12月までに全線を開業させることを公約している。これは政府の2026~2035年のタイムラインよりも大幅に野心的である。

ビンスピード社の提案は、ベトナム史上最大級のインフラプロジェクトを国内民間企業が主導するという画期的な事例であり、国営または外国主導の巨大プロジェクトというパラダイムを転換させる可能性がある。ビンスピード社が大幅に加速させたタイムライン(政府の2035年に対し2030年完成)は、政府の緊急性に応えることを意図した大胆な主張であるが、前例のない国の支援と合理化された承認なしには、実質的な実行リスクと実現可能性に関する疑問も提示する。ビングループのエコシステム(TODのためのビンホームズ、製造業の類似例としてのビンファスト)は、ビンスピード社のHSR計画の主要な実現要因として位置づけられており、都市開発、産業能力、プロジェクト管理における潜在的な相乗効果を提供し、これが独自の利点となる可能性がある。

提案された資金調達モデルと技術取得戦略

資金調達モデルとして、ビンスピード社は総資本の20%(約122億7,000万米ドル)を自己資金で調達することを約束している。残りの80%については、国家予算から無利子融資を受け、実行日から35年間で返済することを提案している。このモデルは、従来の公共投資と比較して国家予算への財政的圧力を軽減することを目的としている。

技術取得戦略としては、機関車、客車、信号システムの技術移転と国内生産のために、中国、ドイツ、日本の主要パートナーと現在協議中である。また、技術的能力を現地化し、自立を促進するために、迅速な労働力訓練を計画している。収益創出支援として、ビングループおよびビンホームズと提携し、駅周辺の都市部をTODモデルに基づいて開発し、収益を支援し、公的投資の返済に充てる計画である。

ビンスピード社の資金調達提案(自己資金20%、無利子国家融資80%)は、この規模ではベトナムにとって斬新なPPP構造である。これは民間部門の効率性を活用しつつ、国家の財政支援に大きく依存しており、実質的に国家が直接の実施者ではなく主要な資金提供者となる。このような大規模かつ長期的な無利子融資を国家が提供する実現可能性は、重要な不確実要素である。ビンスピード社の技術取得における多角的パートナーアプローチ(中国、ドイツ、日本)は、単一の外国技術スタックへの依存を避け、国内生産のためのより競争力のあるサプライチェーンを育成する可能性のある、クラス最高のコンポーネントやシステムを選択する戦略を反映している。ビングループ/ビンホームズとのTOD開発の統合は、ビンスピード社の財政的持続可能性計画の中核部分であり、巨額の負債を返済し、プロジェクトを財政的により実行可能にするための追加の収益源を生み出すことを目的としており、これは政府自身も推進している戦略である。

国家巨大プロジェクトにおける民間部門主導の影響

政府の対応として、情報源はビンスピード社の提案を報告しているが、HSRプロジェクト全体の特定の資金調達モデルや主導的役割に関する正式で詳細な政府の評価や受諾はまだ含まれていない。政府は「独立と自立」を強調し、国内の資金源/企業を優先する方針を示しており、これはビンスピード社のような有能な国内企業にとって有利に働く可能性がある。

潜在的な利点としては、民間部門の効率性、革新性、そして(ビンスピード社のタイムラインが主張するように)より迅速な実行が挙げられる。国家の直接的な実施能力への当面の負担を軽減する。潜在的な課題/リスクとしては、融資が返済されない場合の国家の財政リスク、民間利益よりも公益が優先されることの確保、このような大規模PPPの管理の複雑さ、単一の民間グループがこのような重要なインフラを独占する可能性などが挙げられる。国家が80%の無利子融資を提供する意思があるかどうかは、大きな不確実要素である。政策との整合性については、ビンスピード社のイニシアチブは、民間部門開発の育成に関する党の決議と一致すると見なされている。ベトナムは国内投資を容易にするために法律を改正している。

ビンスピード社の提案は、ベトナム政府にとって大きな機会であると同時に複雑な課題も提示している。国内民間部門の関与を促進する政策とは一致するが、このような戦略的な国家資産に対する財政リスク、規制監督、長期的な公益の慎重な検討も必要とする。ビンスピード社の入札成功は、20%の自己資金負担能力だけでなく、その野心的なタイムラインと国家からの巨額の財政貢献(提案された融資を通じて)を正当化するための比類のない技術的およびプロジェクト管理能力を実証できるかどうかに大きく依存するだろう。ビンスピード社のモデルが採用されれば、ベトナムが将来の他の巨大プロジェクトに資金を供給し実施する方法の前例となり、国家の資金調達メカニズムに支えられた国内大企業の国家インフラ開発における役割が増大する可能性がある。

表4:ビンスピード社の南北高速鉄道提案 – 主要詳細

項目詳細
提案主体ビンスピード高速鉄道投資開発株式会社 / ビングループ
提案総投資額1,562兆ドン(約602.4億~613.5億米ドル)、補償・移転費用等除く
自己資金拠出総資本の20%(約122.7億米ドル)
提案国家融資残り80%、無利子、実行日から35年返済
提案建設開始日2025年12月以前
提案全線開業日2030年12月まで
技術パートナーシップアプローチ中国、ドイツ、日本の主要パートナーと技術移転・国内生産のため協議中
主要支援戦略ビンホームズとのTOD、国内労働力訓練など
提案の利点(表明されているもの)国家予算への財政圧力軽減、タイムラインの加速化など

実施への道のり:政策、調達、能力構築

主要な政府決議と政策枠組み

主要な政府決議と政策枠組みは、南北高速鉄道プロジェクトの推進において中心的な役割を果たしている。2025年4月に発行された政府決議第106/NQ-CP号は、南北高速鉄道のロードマップを詳述し、2026年12月31日までの着工、2035年までの運用開始を目標として設定した。また、FS完了、業者選定、用地買収などの具体的な期限も定めている。これに先立ち、2024年11月30日には国会が約670億米ドルのプロジェクト投資政策を承認、2023年2月には政治局が2030年までの鉄道輸送開発の方向性と2045年までのビジョンに関する結論第49-KL/TW号を発行している。

さらに、関連する政令や決定が発行されるか、現在策定中である。これらには、鉄道関連サービス/物品を提供する国有企業/国内企業の選定基準、鉄道建設/運用における科学技術開発、研究、技術移転に関する規則、国家による直接指名/調達または国内生産の対象となる鉄道関連物品/サービスのリストに関する首相決定、技術調査、FEED標準、FEEDプロジェクトのコスト管理、EPC契約責任に関する規則、そして一時的な森林地利用と原状回復の管理に関する規則が含まれる。法的基盤としては、2017年の鉄道輸送法第06/2017/QH14号が「高速鉄道」(時速200km以上、標準軌、複線、電化)を定義しており、2017年の改正で国内投資が容易になった。

2023年から2025年にかけての政治局、国会、政府決議第106号といった一連のハイレベルな決議と指令は、ベトナム指導部のあらゆるレベルからのHSRプロジェクトを迅速に進めるための協調的かつ同期した推進を示しており、長期的なビジョンから緊急の国家優先事項へと移行している。国内産業参加、技術移転、FEED標準に関する特定の政令の発行計画は、HSRに合わせた規制環境を積極的に構築し、地域の利益を最大化し、プロジェクト特有の複雑さを効果的に管理しようとする政府のアプローチを示している。2017年の鉄道輸送法におけるHSRの法的定義とその後の国内投資を促進する改正は、最近の加速段階以前から長期的な戦略計画があったことを示唆しており、HSRが突発的な決定ではなく、鉄道近代化のための長期ビジョンの一部であり、関連法規が段階的に整備されてきたことを示している。

技術選定基準、入札プロセス、業者エンゲージメント

技術選定基準に関して、チャン・ホン・ハー副首相は、能力、技術的専門知識、国際基準と慣行に従った技術の移転・習得・開発能力を重視すると述べている。科学研究、技術革新、先進的鉄道技術の移転を支援するためのガイドラインが発行される予定である。JICAは、既存路線の改良を含む選択肢や、日本の電化システムのような特定技術を考慮したHSRシステムと技術の分析・選定を含む調査を実施した。これらのJICA選定基準の詳細な調査結果は、電化の技術的側面を除き、情報源には完全には詳述されていない。

入札手続きについては、政府が国会審査のために最終決定する予定である。2024年1月1日に施行されたベトナムの新入札法および2024年2月27日の政令第23/2024/ND-CP号は、専門分野における投資家選定の枠組みを提供し、透明性と競争性の向上を目指している。一般的な入札プロセスには、業者選定計画の承認、EOI/事前資格審査/入札書類の発行、入札準備、入札保証、開札、入札評価が含まれる。国際入札も許可されており、EOIおよび入札書類準備のための特定のタイムラインが設定されている。HSRについては、コンサルタント業者選定とフィージビリティスタディは2026年8月までに完了し、主要業者の選定は2026年12月までに行われる必要がある。プロセスを迅速化するために、「特定工事の指名業者選定」のような特別メカニズムも提案されている。これは特定のパッケージに適用される可能性があり、他の部分の公開国際入札とは異なる場合がある。

業者エンゲージメントについては、外国企業とベトナム企業の協力が重視されている。EPC(設計・調達・建設)契約が使用され、関係者の責任を定義する規則が設けられる。

ベトナムの技術選定基準は、技術そのものだけでなく、その「移転可能性」と「現地化」の可能性を非常に重視しており、長期的な技術依存を避け、自立可能な国内鉄道産業を育成するという戦略的目標を示している。2024年の新入札法と政令第23号の最近の制定は、HSRプロジェクトの重要な入札段階の直前に行われたものであり、政府がこのような複雑で高価値なプロジェクトに対応するために調達枠組みを積極的に近代化し、透明性と効率性の向上を目指していることを示唆している。「特定工事の指名業者選定」を広範な競争入札と並行して使用する可能性は、柔軟な調達戦略を示している。これは、供給業者が少ない専門的なパッケージや、ODAや特定の技術移転コミットメントに関連する戦略的パートナーシップがより直接的な選定を正当化する場合に利用される可能性があり、プロジェクトの大部分は完全な国際入札を経ることになるだろう。

人材育成と国内鉄道産業の育成

包括的な人材育成計画の必要性が政府によって強調されており、建設、管理、運営、保守の各段階を網羅する。すべての関係者(官民)の訓練ニーズを特定し、専門家の数、資格、スケジュール、リソースを定義する。教育訓練省がこれを担当し、2025年第2四半期までに完了予定である。この明確な理解は、物理的なインフラだけでは不十分であり、熟練した人的資本がHSRの成功に不可欠であることを示している。

鉄道産業開発プログラムは商工省が主導し、設計、製造、建設、技術部門を評価する。国際モデルから学び、2035年まで(2045年までのビジョンを含む)の開発ロードマップを作成する。これも2025年第2四半期までに完了予定である。国内調達と国内生産については、国内生産のための鉄道関連物品/サービスのリストに関する首相決定が予定されており、ビンスピード社は技術移転による機関車、客車、信号システムの国内生産を計画している。鉄鋼大手のホアファットグループはレールの供給意向を示している。人材育成のための国際協力としては、ベトナムは日本に鉄道工学分野の奨学金を要請し、韓国は訓練協力を申し出ている。

HSR建設プロジェクト自体と並行して、専門的な人材育成計画と鉄道産業開発計画を策定することは、包括的で長期的な戦略を示している。ベトナムは単に鉄道を建設するだけでなく、支援エコシステム全体を構築しようとしている。車両や信号システムのような主要コンポーネントの国内生産への推進は、技術移転と長期的なコスト/依存度削減の願望の直接的な結果である。これはホアファット社のような国内企業にとって大きな機会を生み出すが、国内製造能力への相当な投資も必要とする。人材育成のための国際的支援(日本からの奨学金、韓国からの訓練)を積極的に求めることは、先進的な鉄道技術における現在の国内スキルギャップを認識し、より長期的な国内訓練プログラムが確立されるまでの間、必要な専門知識を迅速に構築するための実践的な措置である。

障害の克服:課題、リスク、戦略的考察

財政的持続可能性の確保と経済リスクの管理

670億米ドル以上という巨額の投資は、2023年のGDPの約16%に相当し、コスト効率(例:中国HSRより高い1kmあたりコスト)や潜在的なコスト超過に関する懸念がある。初期の収益は運営・保守(O&M)費用を賄うのみと予想され、インフラ維持には国家支援が必要となる。年間O&M費用は当初5億米ドルに上る可能性がある。世界的にHSRは費用回収に苦慮することが多い。

融資(国家または外国)に大きく依存する場合、債務返済管理が重要となる。ビンスピード社が提案する35年間の無利子国家融資は、承認されれば国家にとって重大な長期的負債となる。駅周辺のTODや土地公売は、収益を生み出しコストを相殺するための主要戦略である。旅客運賃は手頃な価格設定が必要であり(ある計画では航空運賃の75%を上限とする)、中国のHSRの運賃負担能力は絶対額が低いにもかかわらず複雑である。

主要な財政的課題は、初期の670億米ドルを確保することだけでなく、HSRが世界的に継続的な補助金を必要とすることが多いため、長期的な運営上および財政上の持続可能性を確保することである。ベトナムのTOD戦略は、付随的な収益源を創出することでこれを軽減しようとする直接的な試みである。運賃を一般市民にとって手頃な価格に抑えることと費用回収を達成することの間の緊張は、古典的な公共事業のジレンマを提示する。これには、持続不可能な財政的負担を生み出すことなく、乗客数と社会的便益を最大化するために、政府と運営者による慎重なバランス調整が必要となる。政府が予算配分のための標準的な財政的実現可能性評価からプロジェクトを免除する意向と、同時にTODを通じた価値獲得を強調する姿勢は、ハイブリッドアプローチを示唆している。つまり、戦略的重要性のために直接的な財政収益の低さを受け入れつつも、経済的な共同便益と代替的な収益源を最大化しようとしている。

技術的複雑性と実行課題への対応

ベトナムにおけるこの種のHSRプロジェクトは前例がなく、広大な規模、先進技術、高い技術要件を特徴とする。2026年末までの着工という加速されたタイムラインは野心的であり、準備段階(FS、用地買収、入札)を圧縮する。

広範な用地取得(10,800ヘクタール)と住民移転(120,836人)が見込まれており、ラオカイ-ハノイ-ハイフォン線では2,632ヘクタールと19,136人の移転が必要とされている。これは慎重な管理を要する大規模な事業である。複数の省庁(建設、運輸、財務、計画投資、商工、教育)、20省にわたる地方自治体、様々な国有企業(EVN、ベトナム鉄道)、民間企業間の膨大な調整が必要となる。部品や資材の製造における国内能力開発は長期的な目標であるが、初期の課題でもある。

20省にわたる広大な用地取得と住民移転は、最大の非財政的実行リスクの一つである。成功は、地方自治体による効率的、公正かつタイムリーなこのプロセスの完了にかかっており、これは大規模インフラプロジェクトにおける主要なボトルネックとなり得る。FEED標準と堅牢なEPC契約管理の採用は、ベトナムにとってこのような新規かつ複雑なプロジェクトに内在する技術的およびコスト超過リスクを軽減するための戦略的試みである。しかし、HSRのためのこれらの高度なプロジェクト管理アプローチに関する国内の深い経験の欠如自体が課題となる可能性がある。加速されたタイムライン(2026年末までの着工)は、すべての実行リスクを大幅に増幅させる。これは、ベトナムにとって前例のないペースで複数のクリティカルパス活動(FS、設計、用地取得、入札、資金調達)の並行処理を要求し、卓越したプロジェクトガバナンスを必要とし、圧力が高まれば妥協につながる可能性がある。

長期的社会経済的影響と地域統合

HSRは、GDPを押し上げ、経済拠点間の連結性を強化し、貿易を促進し、投資を誘致し、地域物流拠点としてのベトナムの役割を確固たるものにすると期待されている。駅周辺のTODは都市景観を再形成し、新たな経済中心地を創出する可能性がある。都市化された人口の80%がアクセスを得る可能性がある。フエ、ダナン、ニャチャンといった沿岸都市への迅速なアクセスを提供することで、観光業を革新する可能性もある。

環境面では、道路や航空輸送に代わるより環境に優しくエネルギー効率の高い代替手段となり、ネットゼロ目標に貢献する。将来的には、地域鉄道網(中国、ラオス、カンボジア、タイ)との統合の可能性があり、ASEANや大メコン圏におけるベトナムの役割を強化する。これらの展望は、プロジェクトがより大きな地域輸送ネットワークにおいて果たす可能性のある役割を浮き彫りにし、長期的な戦略的考慮事項の鍵となる。

南北高速鉄道は、国内輸送ソリューションとしてだけでなく、特に製造拠点と国際港湾/国境間の接続性を改善することにより、ベトナムが地域および世界のサプライチェーンにおける地位を高めるための重要な実現要因として構想されている。HSRの成功裏の実施、特にそれが大幅な国内産業開発と技術習得を伴う場合、ベトナムをASEAN内、特にまだ大規模HSRに着手していない国々にとって、鉄道開発のモデル、あるいは将来の技術/サービス輸出国として位置づける可能性がある。プロジェクトの長期的な成功は、その社会経済的目標の達成において、他の輸送モード(航空、海上、道路)との効果的な統合、およびアクセシビリティを確保しネットワーク効果を最大化するための駅周辺の包括的な都市計画に大きく依存するだろう。

戦略的展望

南北高速鉄道は、ベトナムにとって国家を定義するプロジェクトであり、強力な政治的意思と野心的なタイムラインに支えられている。国際的なパートナー(中国、日本、韓国)と技術の選択は、コスト、技術移転、国内産業育成、地政学的要因を比較検討する複雑な決定である。ビンスピード社のような強力な国内民間入札者の出現は、さらにダイナミックな層を加えている。潜在的な経済的・社会的便益は計り知れないが、プロジェクトは重大な財政的、技術的、実行上の課題に直面している。段階的開発、国内能力構築、価値獲得を含む多様な資金調達戦略を重視するベトナムのアプローチは、これらの複雑さを乗り越えるための包括的な努力を反映している。プロジェクトの最終的な成功は、ベトナムのインフラ、経済、地域的地位を再形成するだろう。

中心的なテーマとして浮上するのは、ベトナムの戦略的なバランス感覚である。実施の迅速性と品質・持続可能性のバランス、外国の技術と資本の必要性と自立・国内産業育成の願望のバランス、そして複数の主要な世界的勢力との関係のバランスである。このテーマは、複雑さに対する加速されたタイムライン、外国からの入札と並行した技術移転の要求、そして中国、日本、韓国との同時進行の関与を観察することから浮かび上がる。

今後の展望として、当面は主要パートナー/コンソーシアムの決定、フィージビリティスタディの最終決定、そして2026年の着工目標を達成するための用地買収と用地準備という膨大なロジスティクス作業が特徴となるだろう。これらの初期段階の成果は、プロジェクトの軌道を示す重要な指標となる。世界のHSR業界は、ベトナムの進捗を注視することになる。