ニャチャン観光アパートで一家3人死亡、殺人後自殺の疑いで捜査

※写真はイメージです

事件発生の経緯:観光アパートでの悲劇

事件が発覚したのは、2025年5月1日木曜日の午前9時頃です。場所はベトナム中部沿岸の主要都市であり、人気の観光地として知られるカインホア省ニャチャン市のフオックロン区、ザーチュン通りに建つ賃貸の観光アパートの一室でした。この日はベトナムの祝日であるメーデーにあたり、前日の南部解放記念日(4月30日)と合わせて連休期間中の出来事でした。

捜査によると、亡くなった3人は、事件前日の4月30日午後に、他の親族数名と共にニャチャン市に到着し、休暇を過ごす目的でこのアパートにチェックインしていました。グループでの旅行が始まった矢先の悲劇でした。

翌5月1日の朝、同行していた親族が、被害者たちの部屋に連絡を取りましたが応答がありませんでした。部屋のドアをノックしても反応がなかったため、不審に思った親族がドアを開けたところ、室内に3人の遺体を発見しました。発見した親族が直ちに警察当局に通報し、事件が公になりました。一部の初期報道では発見者を「住民」としていましたが、後の情報で同行の親族が第一発見者であったことが確認されています。

事件現場となった建物は、観光客向けに短期で貸し出されるタイプのアパートで、報道によっては6階建ての建物と伝えられています。当初の情報では「ホテル」や「家」といった表現もありましたが、複数の情報源は旅行者向けの賃貸アパートであることを示しています。

連休を利用して訪れたリゾート地で、到着からわずか半日ほどで凄惨な事件が発生したことは、関係者や地域社会に大きな衝撃を与えています。特に、共に旅行に来ていた親族によって遺体が発見されたという事実は、事件の悲劇性を一層際立たせています。

被害者の詳細と関係性

警察の捜査により、亡くなった3人の身元と関係性が明らかになっています。当初は単に「家族」や「夫婦」と報じられていましたが、より詳細な情報が判明しました。

被害者の身元情報

男性: フイン・マイ・ゴック・D(Huỳnh Mai Ngọc D.)さん。1986年生まれで、事件当時は38歳または39歳。出身地はビンディン省ヴァンカン県ヴァンカン町です。

女性: グエン・ティ・B(Nguyễn Thị B.)さん。1997年生まれで、事件当時は27歳または28歳。出身地はカインホア省ヴァンニン県ヴァンロン村です。

子供: レ・ドン・Q(Lê Đông Q.)くん。2020年生まれで、事件当時は4歳または5歳。母親であるグエン・ティ・Bさんと同じく、カインホア省ヴァンニン県ヴァンロン村の出身です。

被害者間の関係と特記事項

警察の発表や報道によると、フイン・マイ・ゴック・Dさんとグエン・ティ・Bさんは恋人関係にありました。レ・ドン・Qくんは、グエン・ティ・Bさんが以前の関係でもうけた子供、いわゆる連れ子であることが確認されています。子供の姓が男性被害者や母親と異なることも、この関係性を裏付けています。一部の初期報道で子供を「夫の連れ子」とする情報もありましたが、これは他の具体的な報道内容と矛盾しており、女性側の連れ子であるという情報が有力視されています。

特筆すべき点として、複数の情報源が、亡くなったグエン・ティ・Bさんが当時、妊娠約3ヶ月であったと一貫して報じています。この事実は、事件の背景や動機を解明する上で重要な要素となる可能性があります。

被害者となった男女の出身地が異なる省(ビンディン省とカインホア省)であることから、遠距離恋愛の関係にあった可能性も考えられます。

被害者情報の概要表

氏名/イニシャル年齢性別出身地関係性備考
フイン・マイ・ゴック・D38歳または39歳男性ビンディン省ヴァンカン県ヴァンカン町グエン・ティ・Bさんの恋人首を吊った状態で発見
グエン・ティ・B27歳または28歳女性カインホア省ヴァンニン県ヴァンロン村フイン・マイ・ゴック・Dさんの恋人妊娠約3ヶ月
レ・ドン・Q4歳または5歳男性カインホア省ヴァンニン県ヴァンロン村グエン・ティ・Bさんの息子(連れ子)以前の関係からの子供

発見時の遺体状況と警察の見解

遺体の状況に関する情報

遺体が発見された際の状況について、以下の点が報じられています。

男性被害者であるフイン・マイ・ゴック・Dさんは、首を吊った状態で死亡しているのが発見されました。ベトナム語の報道では “tư thế treo cổ” と表現されています。

一方、女性被害者のグエン・ティ・Bさんと、その息子であるレ・ドン・Qくんは、アパートの部屋の中で亡くなっていました。特に、この母子の遺体には「複数の異常な痕跡」(ベトナム語: “nhiều dấu vết bất thường trên thi thể”)があったと報じられています。これは、外部からの何らかの物理的な力が加えられた可能性、すなわち他殺の可能性を強く示唆するものです。ただし、これらの痕跡が具体的にどのようなもの(例えば刺し傷、打撲痕、絞殺痕など)であったかについては、現時点の報道では明らかにされていません。

有力視される殺人後自殺の可能性

これらの現場状況、とりわけ男性が首を吊って亡くなっていたこと、そして女性と子供の遺体に不審な痕跡があったことから、捜査当局は事件の初期段階から殺人後自殺(murder-suicide)の可能性が極めて濃厚であるとの見方を示しています。

現時点で最も有力な仮説は、男性が恋人である女性とその連れ子を何らかの方法で殺害した後、自ら首を吊って命を絶ったというものです。男性の死因と推定される縊死と、女性と子供の死因を示唆する外傷の存在という状況証拠の違いが、この殺人後自殺という警察の見立てを強く裏付けています。

しかしながら、女性と子供の正確な死因については、現在行われている司法解剖の結果を待つ必要があります。司法解剖の結果は、事件の具体的な経緯を確定する上で不可欠な情報となります。

事件前の口論に関する証言

さらに、事件の背景を探る上で注目される情報として、事件発覚前に被害者の部屋から男女が口論する声が聞こえた、という証言が近隣住民やアパート近くにいた人々から寄せられていると、複数の報道機関が伝えています。この情報が事実であれば、亡くなった男女間に深刻な対立や葛藤が存在し、それが今回の悲劇的な結末に至る直接的な引き金となった可能性を示唆しています。口論の内容や原因については、今後の捜査で明らかにされることが期待されます。

警察当局による捜査の現状

捜査体制と初動対応

この重大事件の捜査は、カインホア省警察捜査局(Cơ quan Cảnh sát điều tra Công an tỉnh Khánh Hòa)が主体となり、ニャチャン市警察やフオックロン区の地元警察、関連する専門部署と緊密に連携しながら進められています。

事件発生の通報を受けた警察は、直ちに現場となった観光アパートとその周辺を封鎖し(”phong tỏa hiện trường”)、一般市民の立ち入りを厳しく制限しました。現場では、鑑識部門の捜査員による詳細な現場検証(”khám nghiệm hiện trường”)が実施され、指紋や遺留品など、事件解決につながる可能性のある物的証拠の収集が慎重に行われました。

同時に、亡くなった3人の正確な死因や死亡推定時刻、状況などを明らかにするため、司法解剖(”khám nghiệm tử thi”)が実施されました。これは法医学的な見地から事件の真相に迫るための重要な手続きです。

これらの現場での活動と並行して、警察は同行していた親族やアパートの関係者、近隣住民など、事件に関する情報を持っている可能性のある人物からの事情聴取を進めています。事件前の被害者たちの様子や、不審な点などがなかったかなど、多角的な情報収集が行われています。

捜査の焦点と今後の見通し

報道があった2025年5月1日の時点では、捜査はまだ継続中であり、警察当局は事件の原因と状況の完全な解明(”điều tra, làm rõ vụ việc”)に向けて全力を挙げていると発表しています。現段階では、事件の動機や具体的な犯行経緯に関する公式な結論は発表されていません。

今後の捜査における主な焦点は以下の通りです。

  • 司法解剖結果の分析: 女性と子供の正確な死因の特定、死亡時刻の推定、抵抗の痕跡の有無など、法医学的な証拠の確定。
  • 動機の解明: 事件前の口論の内容、男女間の関係における問題、妊娠という状況が事件に与えた影響、経済的な問題の有無など、犯行に至った背景・動機の特定。
  • 物的証拠と証言の照合: 現場から収集された証拠と、関係者からの証言を照らし合わせ、事件の具体的な状況や経緯を再構築すること。

現場封鎖、鑑識活動、司法解剖、関係者聴取といった一連の対応は、殺人事件や不審死事件における標準的な捜査プロセスです。当局がこの事件を極めて重大な事案として認識し、慎重かつ徹底的な捜査を進めていることを示しています。殺人後自殺の可能性が高いと見られているものの、あらゆる可能性を排除せず、客観的な証拠に基づいて最終的な結論を導き出すため、当局は現段階での断定的な発表を控えていると考えられます。

地域社会および関係者は、警察当局による捜査の進展と、この痛ましい事件の真相が一刻も早く解明されることを強く望んでいます。今後の捜査によって、事件の具体的な経緯、背景、そして何よりも犯行に至った動機が明らかにされることが期待されます。